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世界で二番目にTikTokを愛する男がTikTokを語る

年始にこの記事がバズりにバズっていた。

toricago.hatenablog.com

けんすうさん、佐藤航陽さん、イケハヤさん、堀江貴文さんなどをはじめとするネット界隈の有名人が次々と言及し、Newspicks総合欄やはてなブックマーク総合欄のトップにも輝き、今年1のバズになったのではないか。

目から鱗」という表現がぴったりで、「確かに!」、「なるほど!」と思った。TikTokが流行っている理由として、「動画が簡単に撮れるから流行った」「可愛い子がたくさんいるから」「ぶりっ子する言い訳ができる」などの意見が飛び交い、それらの考察がコモディティ化してる中で、たしかにまだ誰も気づけていなかったポイントを突かれたという感じだ。

バズ記事執筆者のtoricago氏は世界一TikTokを愛する男なだけあって、自分の目で見て、自分の手を動かして、めちゃくちゃ使い込んだ上で、自分の頭でめちゃくちゃ考えた結果が、年始のバズ記事を生んだのであろうw 完全敗北したと思ったw

まだ冒頭のバズ記事を読んでいない方は、先にそちらを読むことをおすすめします。あの記事はFacebook CEOのマークザッカーバーグなども読むべき価値のある内容であり、日本人しか読めないのが勿体無いくらいだw

それでは僕も、TikTokが起こした「価値経済革命」について、UI/UX視点でも補足しておきたいと思う。あくまで動画の「投稿者」ではなく、「閲覧者」視点で書く。 TikTokはUI/UXが良いとよく聞くが、具体的に何がどう良いのか?YouTubeと比較したい。まずはアプリを起動した瞬間の話から入ろう。

YouTube起動後、

 

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まずはこのようにロゴが表示されてから、

次にホーム画面に着地する。

 

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ホーム画面には広告動画、フォロー中のYouTuber動画、視聴履歴に基づく動画のサムネイル(見出し画像)がずらっと並ぶ。ここで気になるものがあればクリックしてもいい。なければホーム画面から「急上昇」タブあるいは「登録チャンネル」タブに切り替えたりする。 

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「どれにしようかなぁ」って考えながらスクロールする。「これにしようかな」って決める。サムネイルをタップする。人気動画の場合は、まずは広告を数秒間強制的に見させられる。広告を見終わったあと、「どうもこんにちわ、いちいち平成最後って言ってるやつ、だいたい次の時代楽しめない。」的なYouTuberのイントロがやっとスタートする。動画の途中でまた広告が流れ、視聴体験が中断される。見終わったら、10秒くらいかかる次の動画への切り替えロード時間を経てから、次の動画に遷移する。

 

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次の動画にいけたら、もちろん最初はまた広告からスタートだ。自動ロードを待たずして一回戻り、おすすめ一覧などで次にみる動画を取捨選択するケースもあるだろう。

 TikTokの場合はどうか?

アプリを起動するとロゴが表示されて、

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ドンっ

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いきなりおすすめ動画が自動再生される。*1

ここが圧倒的に速い。有無を言わさない速さだ。そして1スクロールしたら、次のおすすめ動画が再生される。

ど、れ、に、し、よ、う、か、なっていちいち考える必要がない。ワンスクロールで、次の動画だ。これはInstagram Storiesが起こしたUI革命を完全に踏襲している。(正確にはSnapchat Storiesが先に起こした革命だが。) これについては以下の記事がイラスト付きで、Instagram タイムラインとInstagram Storiesを対比していて分かりやすい。

インスタ女子が語る「LINE衰退説」 ストーリー起点からの「脱線おしゃべりDM」がチャットアプリの入る隙間を潰している話。|アプリマーケティング研究所|note

動画が面白くないと思ったら、すぐスワイプして次に移ればいい。Tinderような感覚で縦にサクサクスワイプしていくUIは楽しいw

TikTokでは広告も全くストレスに感じない。上記同様、自分の意思で0.5秒でスワイプして飛ばせるからだ。YouTubeの広告がストレスフルなのは、興味のない宣伝を強制的に、5秒間耐え続けないといけないからだ。自分の意思は100%無視されている状態だ。バイトが終わって、「よ〜しYouTube 見るぞー!」ってアプリを開いて、記念すべき最初の動画視聴体験が広告。UXとして良いとは言えない。

 

TikTokではさらに、「いいね」を押すハードルがめちゃくちゃ低い。気づいたら「いいね」を押しまくっている。今見たらTikTok上で累計1,000「いいね」していた。僕が人生を通して、YouTubeで押した「いいね」と、Facebookで押した「いいね」とInstagramで押した「いいね」をすべて足し合わせても、おそらく、僕がTikTokで押した累計「いいね」数には到底及ばない。

なぜか?Facebookはリアルな人と繋がっているので、投稿に「いいね」と思っても、必ずしも「いいね」はしない。「いいね」をすることは、相手に好意を示したり、暗に何かしらのメッセージを送ることになり、人間関係に影響を及ぼす話だからだ。さらに、自分が「いいね」した投稿が自分の友達のタイムライン上に出てくるので、ますます「いいね」しづらい。あいつはこれに「いいね」したのかってバレる。

TikTokの場合はどうか?基本的におすすめ動画に出てくるのは知らない人たちだ。自分に1ミリも関係ない。「いいね」しようが自分にはなんの影響もないので気軽に「いいね」できる。だが「いいね」を押しまくる理由はそれだけじゃない。TikTokの「いいね」は、ブックマーク的な目的ですることが多い。YouTubeであれば、動画をブックマークしなくても、いつでも「レペゼン地球 ライブ」と検索すれば、過去に見たお目当ての動画と容易に再会できる。それに対して、TikTokでは冒頭の記事にあったように素人がバズを起こしやすい。ページに飛んでみたら、その動画が初投稿だったなんてことはざらにある。素人がバズを起こしやすいということは、後日、「あの動画もっかい見たいな」って思っても、後から検索のしようがないということだ。投稿者の名前なんて知らないからね。そうなると、今この瞬間に「いいね」を押しとかないと、その動画には一生出会えなくなってしまうかもしれない。だから後から見返せるように「いいね」を押しておく。

YouTubeではこれは成り立たない。YouTubeでは基本的には人気YouTuberしか見ない。というより冒頭のバズ記事にもあったようにそもそも底辺YouTuberに出会える仕組みがあまりない。名前を知らない無名YouTuberの動画はそもそも目に入らないのだから、ブックマークの必要すら生じない。目に入る人気YouTuberの動画は、名前を当然知っているので後から検索で探せばいい。

またこの話には、人々のスマホでの可処分時間と、動画の長さも関係してくる。Youtubeでは動画が長いので、1日に数百本も見る時間はない。出会うクリエイターの数が限られている。TikTokは動画が短いから1日に容易に100本を超える動画を消費してしまう。すなわち毎日100人を超えるクリエイターと出会うわけだが、いちいちそんなに多くの無名素人の名前(中にはもちろん有名TikTokerも混ざっているが)を覚えてられないので、ブックマーク的「いいね」をすることで、後から見返せるようにしておかないといけない。

「いいね」を押すインセンティブが構造的に付与されているという話をしてきたが、TikTokでは単純にUI的な意味でも「いいね」を押しやすい。

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スマホを右手で持った時に(ちなみに人類の9割は右利きらしい)、「いいね」を示すハートマークはちょうど親指と重なる位置にある。指を大きく動かさなくても、定位置で超イージーに「いいね」が押せてしまう。一番最初にTikTokの前身であるmusical.lyを開いたときは、フォローマークや「いいね」などのボタンが縦軸に整列されているUIが見慣れなく、新鮮に感じた記憶がある。musical.ly買収によってノウハウを得たバイトダンスのUIチームも「いいね」の押しやすさを重視している可能性がある。

他サービスを見てみると、例えば、女性向け動画メディアC CHANNELの縦型動画のボタン群は下の横軸にある。見た目に違和感はないが、TikTokに比べて「いいね」が少々押しづらい。

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 じゃあYouTubeだと「いいね」(高評価)ボタンはどこにあるのか。

 

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みなさんすぐに分かりましたか?3秒くらいかかったのではないでしょうか。YouTubeのUIは情報が満載すぎて、「いいね」ボタンが埋もれてしまっています。しかも見つけたとしても親指からは程遠く、めちゃくちゃ押しづらい位置にあります。(絶大なる人気を誇るYouTubeも、結局はデスクトップPC時代に生まれたサービスであり、スマホファーストなUI/UX設計になっていない部分もあると感じられる。)

そしてYouTube視聴中にスマホを横にして大画面モードに切り替えたら、なんと、「いいね」ボタンは消え失せます。視聴中に万が一、うおおおめっちゃ「いいね」押してえ!って思ってもボタンすらない。 

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 いくらおすすめ欄に素人動画を混ぜても、ユーザーが「いいね」って思ってもわざわざ「いいね」を押さないようなUI/UX設計だと、AIの教師なき学習問題(冒頭バズ記事参照)は解決できない。AIが学習するためのエサとなる「いいね」が鍵を握る。これらの結果、一定時間内に「いいね」を押される回数が多い、発掘された動画はおすすめデフォルト表示にすくい上げられる。おすすめ欄は実際に「いい」動画が、「いいね」しやすい状態で埋め尽くされ、さらに「いいね」されるという好循環だ。このようにしてバイト終わりにTikTokを開いたら、1秒後には上記の「いい」動画が再生されはじめて、元気が出るというカラクリだ。

また、一瞬脱線するが、YouTubeは自分から能動的にどの動画を見るかを選択する形式であるため、運営側および投稿側が最重要視するKPIは再生回数となる。TikTokおすすめフィードは、自分から見る動画は選べず、受動的な体験だ。そのため再生回数という数字は動画の質を判断するKPIにはなりえない。TikTokではたとえ素人でも、投稿してくれた人の動画は全て、おすすめフィードに混ぜ込むことで少なくとも一定数の人には再生してもらえるようにしてあげるよ。そこから先は、「いいね」がものをいう世界だ。だからこそ「いいね」の位置が重要になってくるし、逆に再生回数至上主義のYouTubeは「いいね」ボタンの位置はさほど重要ではないのかもしれない。*2

ちなみにYouTubeでは再生回数稼ぎのために過激なサムネイルや釣りタイトルを付けるなどといったモラルハザードを引き起こしやすいが、TikTokではこれらは比較的起こりづらい。中身がつまんなかったら、「いいね」は押されない。「いいね」が押されないと、バズらない。小手先テクニックだけで中身のないものは伸びないし、そもそも初投稿でもおすすめフィードに勝手に流してくれるのでテクニックを使う必要もない

 

アプリ起動時においてもう一つ注目すべき点は、フォロー中ではなく、おすすめのタイムラインがデフォルトで選択されていることだ。

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Twitterに例えたら、自分がフォローしている人ではなく、最初にトレンドツイート一覧が出てくるような感じだ。なぜか?フォローしている人が必ずしも面白い動画を上げるとは限らないからだ。「誰が発信した情報か?」が重要である評価経済では、フォローしている人の情報が最前面に出てくるが、「その情報自体に価値はあるのか?」が重要である価値経済においては価値のあるコンテンツが前面に出てくる。もちろん、「価値」というのは相対的な要素もあり、受け手によって価値の大きさは変わる。ここでバイトダンスのAIが活躍しているのは言うまでもない。実際、TikTokでは「フォロー中」のフィードよりも、「おすすめ」フィードをスクロールしている方が断然良い動画に出会えるし効用も高い。

 

最後に、UI面でやっぱり大きいのは、縦型動画という点だ。YouTubeでは画面の中の上部だけが横型動画*3で、他はコメントや他の動画のサムネイルなどの情報が入り混じっておりカオスで、いまいち動画に没入できない。なので僕はYouTubeを見るときはいつもスマホを横にして大画面表示にするが、いちいち横にするのもめんどくさいし、縦型動画の方が往往にしてスマホにフィットしていて綺麗だ。

ここまでが、画面の中の話。

『画面の一部が、動画』

ではなく、

『画面全体が、 動画 

にしたのが縦型動画。

そして僕は最近iPhone 7からiPhone XRに変えたが、TikTok動画の威力がかなり増した。iPhone X以降だと画面が大きくなるってのももちろん効果絶大なのだが、ホームボタンとふちが見えなくなるってのがとても重要。

スマホ全体が、動画』

になった。ここまでがスマホの中の話。そしてAppleのスマートグラス時代には他のものも見えなくなる。今は電車でiPhoneXのスマホをいじっていたら、確かにスマホ上は100%動画だ。スマホ上は没入を阻害する余計なものは一切ない。でも、前に目を向けるとおっさんが座っているし、乗ってくる人も気になるし、コンテンツ以外の情報が目に入るので完全には没入できない。VR/AR時代には、視界には動画しか表示されなくなり、これがUIの最終形態になるだろう。

『視界全体が、動画 』

になる。「没入」といいうのは、「そのコンテンツしか見えない」ことがとても大事だと思います。

VR(仮想現実)の本質を考えてみよう ~VRはなぜ没入感が生じるのか?~ - テクノロジーだよ人間だよ

このように、ポストTikTok時代の動画メディアは、人間の視界を丸ごと使うUI/UXを作り込んだサービスが台頭するでしょう。

5年後に流行るSNSは? - テクノロジーだよ人間だよ

 

長くなってしまったが、この記事で言いたかったことをまとめると、

1. 「いいね」0の素人動画でもオススメフィードに混ぜこむことで、価値のある素人動画をすくい上げる仕組みがある

2. ショートムービーなので消費する動画の数が圧倒的に多い

3. 1と2により、後で見返したくなった時に無数の素人動画を探す難易度が高いため、「いいね」をブックマークがわりに押すインセンティブがある

4. その「いいね」ボタンは最小限の指エネルギーで押せる位置にある

5. これにより素人の「いい」動画に実際に「いいね」が集まり、オススメフィードに固定される

6. フォローしている人の動画よりもオススメを先に見せる

7. スマホに最適化された縦型の「いい」動画を、アプリ起動後1秒で見始められる

8. 動画の取捨選択にエネルギーを使わなくても次から次へと動画を消費できる

 

次の記事では投稿者視点で、TikTokが起こした革命に迫っていきます。

また来週!

 

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*1:その前に静止画広告が出るケースもある。

*2:実際には高評価数、低評価数、視聴時間など、全ての数字がアルゴリズムに反映されてはいる

*3:YouTubeは一応縦型動画にも対応はしています