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TikTokから考える、ソーシャル「メディア」が勝つ法則

インスタで見る友達の動画はラーメンの動画でも良いが、TikTokではラーメンの動画ではダメ。これはSNSの大原則を示している。抽象化すると、友人や知り合いと繋がっているソーシャルメディアではコンテンツ性は高くなくても平気だが、TikTokのような知らない人の投稿を見ることが多いソーシャルメディアでは、コンテンツ性が高い動画じゃないと成立しない。当たり前だが、知っている人の投稿なら、投稿の中身はなんでもいい。その人が投稿している情報というだけで価値がある。知らない人の投稿は、価値がないと見る気にならないし、見ても時間の無駄と感じてしまう。

TikTokが普及した背景を考えるために、ここでいったん女性向け動画メディアのC CHANNELがピボットした話をしよう。

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CEOの森川亮さんは2016年に以下のように言っている。

C CHANNELを始めて早くも1年と2ヶ月が経とうとしています。
分散型メディアという言葉が話題になっていますが当初はそこまで分散型を志向しておらず自社の動画のブログ的メディアというイメージでクリッパーと呼ぶインフルエンサーの皆さんに動画を投稿いただくサービス形態でスタートしました。
ただやはりCGM型というのは投稿のハードルが高く、単に動画を投稿するだけであればそんなにハードルは高くないのかも知れませんが意味のある動画を説明付きでそれも編集してとなるとやはりハードルが高くよっぽどモチベーションが高くないと続かないという状況が起こりました。
また見る方としても可愛い子が楽しそうに投稿する動画は時には羨ましいということになり逆に面白くないと感じる人も出てきました。そんな中でやはり最初は質の高い動画を自社で作る必用がある、またリーチを伸ばすためには様々なソーシャルメディアを活用しそこに合う動画を制作しないといけないということになりfacebookTwitterInstagramYouTubeなど幅広いソーシャルメディアで展開し急成長するということになりました。また自社で制作する動画もHowToに特化する事で見て役に立って繰り返し見たいという事になってきました。

インフルエンサーに、「なんでもいいよ〜女子が興味ありそうなコンテンツをスマホで撮ってアップしてね〜」 ってお願いしたら、出てくるアウトプットは次の動画のような感じだ。

www.youtube.com

このような動画は、インスタのストーリーに上げてたら、「◯◯ちゃん◯◯行ったんだ〜へー!美味しそ〜!」というわりと好意的な感想を抱かれていたかもしれないが、これがメディア寄りのC CHANNEL上だと、「ふーん。よかったね。」で終わりだ。もちろんインフルエンサーたちは、新しくオープンしたお店とか話題のスポットの「紹介」というコンテンツを提供しようと思ったに違いないが、受け手の当初のC CHANNELに対するイメージは、「知らない可愛いインフルエンサーたちのキラキラ動画を見させられる媒体」になってしまったように思う。投稿する側も、何を投稿すればいいか分からないし、仮に給料をもらえたとしても続かない。もちろん、たまに面白い動画が生まれることもある。

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この動画はC CHANNELで最初にバズった動画の一つらしい。だが、インフルエンサーのみんながみんな、こんな動画を作れるはずはない。視聴数が伸びないと、広告クライアントも付かないし、行き詰まりのはずだ。そんな中、おそらくたまたまハウツー系の動画がバズったことがきっかけで、C CHANNELは自社で動画を作り込む方向にピボットしていった。撮影部隊、編集部隊、専用スタジオなどを設けて、ヘアメイクや料理などの女子にとって実用的な動画、すなわちコンテンツ性が高い動画を提供する。これが見事に需要とマッチした。

このように、知らない人同士のプラットフォームでは、

①投稿する人は何を投稿すればいいか分からない

②見る人は価値のある投稿じゃないと集まってこない

という2つの課題がある。C CHANNELはこの両者の課題に対して、個人に動画企画・撮影を委ねることを諦め、自社で需要がある分野を選定し、自社で価値のある動画を作り込むという方法でクリアした。C CHANNEL開始当初から森川さんは「メディア」をやりたい、LINEの次は「メディア」の領域で再スタートすると言っていたので、SNSを作るというよりは、「メディア」を作ろうとしていたのはおそらく間違いない。ただ上記の通り最初はその「メディア」のコンテンツ作成はスマホを持った個人に委ねようとしていたため、あわよくば個人のソーシャル動画ブログ路線も同時に取り込められるかもしれないと考えていたように思う。それを諦め、「メディア」に完全に振り切ったということだ。ちなみにC CHANNELがリリースされてしばらくしてから、InstagramのStoriesが日本に上陸し、C CHANNELが見ていた未来の一つである「縦型動画」や「個人の動画ブログ」の文化はInstagramが作ることに成功した。Instagram上では既に友人・知人と繋がっているので、コンテンツ性の高い動画が作れなくても、見れなくても、全く問題がない。

TikTokに話を戻そう。TikTokは上記の2つの課題をどう解決したのか?

①「口パク(リップシンク)」動画という型が用意されている。

これはよく言われていることだが、本当に重要。インスタだったら友達や食べ物の動画を撮るだけでよかったが、オープンなプラットフォームでは価値あるコンテンツが必要になってしまう。その結果、何を投稿すればいいか分からない。YouTubeもそうだ。「君は明日からYouTuberね」って言われても、どんな動画を投稿すればいいか全く分からないでしょう。これらに対して、初期のTikTokでは、好きな音楽を選んで、口パクすればいいだけだ。こうゆう動画を撮ればOKというフォーマットがあらかじめ用意されているので、迷うことなく動画を撮れる。もちろん今では口パクだけでなく、あらゆるダンスやお笑いのネタなどの型がたくさん用意されているので、それに乗っかるだけで良い。

②音楽の力によって全てのコンテンツが1.5割増しになる。

たとえラーメン動画であっても、良い感じの音楽と合わさると、見るに耐えうるものに仕上がる。なので、それ単体でコンテンツ性が高い鬼な動画に、音楽という金棒を持たせると、無敵なコンテンツが出来てしまう顔が「可愛い」っていうのもコンテンツ性を上げる一つの要因だし、お笑いもそうだし、綺麗な景色もそうだ。以下の記事で書いたように、そうして出来上がった高いコンテンツ性がある動画がちゃんと掬い上げられるUI/UXの仕組みも存在する。

kayabaakihiko.hatenablog.com

音楽の力は本当に偉大で、写真や動画と組み合わせるだけで、既存のコンテンツはいっきに化ける。バイトダンスが買収したFlipagramという動画アプリもその典型例だ。大学時代に旅行から帰ってきたら必ずFlipagramで写真や動画を繋ぎ合わせて音楽を加えて、思い出の動画を作って一緒に行った友達に送っていたが、これが思いの外反響を呼ぶ。

 

長々と書いてきたが、TikTokが流行った理由を一言で言うと、

強いコンテンツ性がある動画を簡単に作れて、強いコンテンツ性がある動画を見れるから。

当たり前だが、これに尽きる。

なのでソーシャル「メディア」を作る側は、ユーザーがコンテンツの企画・編集・投稿までを迷うことなく簡単に行い、強いコンテンツが出来上がるように手助けしないといけないし、そうして出来上がった価値のあるコンテンツを掬い上げて、見る側の人にちゃんと届ける仕組みも設計しないといけない。もちろん、知人友人と繋がるわりとクローズドなSNSFacebookInstagram)であれば、サービス側がここまでする必要はない。

 

来週は知られざるTikTok誕生秘話について書きます。(間に合えば)

 

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